第20話
お寺の少年

 西暦1574年のある日。  秀吉は兵士をつれて鷹狩りに出掛けた。

秀吉「おれさ、もっともっと気が利く人になりたいんだよね」

兵士「て?」

秀吉「そしたら信長さんにもっともっと気に入られて、もっと出世できるしょ」

兵士「ふむ」

秀吉「だからさ、ぜんぜん気が利かない人をそばにおこうと思って」

兵士「え、なんで?」

秀吉「そのほうが、おれの気が利くぶりが引き立つしょ」

兵士「ネガティブな努力ですね」

秀吉「ぜんぜん気が利かない人、どっかにいないかなぁ〜」

兵士「どうでしょうね」

秀吉「あ、そうだ。兵士くん、今から気が利かないキャラになって」

兵士「いやですよ」

秀吉「兵士くんの人生、ちょっと台無しになっちゃうけど、お願い」

兵士「自分自身の気が利くぶりをパワーアップさせることを考えたほうがいいですよ」

秀吉「て言われても……」

兵士「まず心を鍛えることです。そうすれば心の機微が読めるようになります」

秀吉「心を鍛えるって?」

兵士「例えば、お茶の風流なムードを味わえる人間になるとか」

秀吉「いいね」

兵士「ちょうどあそこにお寺があります」

秀吉「ホントだ」

兵士「あのお寺で、熱いお茶でも味わって、風流レベルをアップさせて来たらいいじゃないですか」

秀吉「暑い日に熱いお茶を喫する。これぞ風流だね」

兵士「僕、ここで待ってますから」

秀吉「いってきまーす」

 秀吉は近江の真言宗の寺をおとずれた。

秀吉「すいませーん。秀吉っていう者ですけど、ちょっと休憩させてください」

 寺で修行中の少年が出てきた。

少年「これはこれは。領主の秀吉さん。ささ、あがって。休んでください」

秀吉「お邪魔しまーす」

少年「今、お茶を入れますね」

秀吉「最高のをよろしくね〜」

 少年は台所にさがった。  台所で少年がなにを考えたかというと。

少年「今日は暑いから、秀吉さん、のどが渇いてるに違いない。よし、まずはポカリスエットなみに一気に飲み干せるように、ぬるいお茶を出そう。ふふふ、おれって気が利くなぁ」

 そして……

少年「どうぞ。お茶です」

秀吉「ありがとう」

 秀吉は、お茶を飲んだ。

秀吉 (心の声)なにこれ! ぬっるーっ!

少年 (心の声)驚いてる驚いてる。おれの機転に驚いてる。ふふふ。

秀吉 (心の声)熱いお茶を飲みたかったのに、なにこれ。

少年「もう一杯、いかがですか?」

秀吉「え、いや、もうけっこうです」

少年「遠慮せずに」

秀吉「いや、ホントにもう」

少年「今、入れてきますね。お待ちください」

 少年は台所にさがった。  台所で少年が考えたことは……

少年「今ので秀吉さんののどは潤った、次は熱いお茶をゆっくり味わってもらおう。おれって気が利くなぁ」

 そして……

少年「どうぞ。お茶です」

秀吉 (心の声)どうせぬるいんだろ。これも一気に飲み干してさっさと帰ろう。アチッ!

少年「いかがです?」

秀吉「あひっ、あひっ」

少年 (心の声)ふふふ。喜んでる喜んでる。

秀吉 (心の声)熱いお茶が欲しいときにぬるいお茶を出し、ぬるいお茶が欲しいときに熱いお茶をだすとは、なんて気が利かない少年なんだ!

少年「満足していただけましたか?」

秀吉「きみ、おれのもとで働かないか?」

少年 (心の声)やった! おれの才能が認められた!

秀吉「君みたいな人間をそばにおきたかったんだ」

少年「はい、よろこんで♪」

 西暦1574年、寺の小僧だった少年は秀吉の部下になった。  少年、このとき14歳。  彼こそ、のちに徳川家康と関ヶ原で対決することになる石田三成である。


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ありけん